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インクカードリッジ裁判

日本のインクカートリッジ裁判はそれからどうなったのか

 確定申告がやっと終わりましたが、今年から自宅のプリンタで用紙を刷り出して提出してみました。
 さて、ここでインクを交換しながら思ったのですが、このインクを家電量販店で買おうとすると、メーカー純正の他にそれ以外のメーカーのプリンタインクってのが売っていますよね。それはそのメーカー品の使い終わったカードリッジを再利用しているものや、詰め替え用インクなど(量販店の片隅には、カードリッジの回収箱が置いてありますし)。
 しかしこれ、たしかプリンタメーカー側が裁判を起こしていたというのをニュースで何回か聞いたことがあるのですよね。でも、たしかニュースでプリンタメーカー側が勝ったとか詰め替えインク販売業者側が勝ったとかどっちも聞いたような気がするし、でも純正ではない詰め替えインクは売っているし結局どうなったのか経緯が混乱しています。
 ということで、せっかくなので調べてみることにしました。

かなりの訴訟が行われているカードリッジ裁判

 まず、このプリンターインクの裁判に関しましては、とある特定のプリンタメーカー対インク業者という構図ではなく、実に複数のパターンが存在することがわかりました。
 国内の有力2社の特定企業を相手とする裁判だけ抽出しても
 ・キヤノン vs リサイクルアシスト
 ・キヤノン vs ペリカン
 ・エプソン vs エレコム,エステー産業
 ・エプソン vs Multi-Union Trading,Dynamic Print USA
 ・エプソン vs Environmental Business Products
 ・エプソン vs 上海中材デジタル科技発展有限公司
 ・エプソン vs CybaHouse,Nutronics
 ・エプソン vs エコリカ
と、大量に出てきてしまいます。

 ■参考:★パテントサロン★ トピック インクカートリッジ,トナーカートリッジ特許訴訟

 さて、今日はこの中から国内の企業同士で起きた、日本の判例として比較的重要と思われる例を2つ挙げてみたいと思います。

キヤノン vs リサイクルアシスト裁判

 まずひとつめ。これはキヤノンが中国で インクカートリッジを中国で再充填して日本で再販していたリサイクルアシストを訴えた裁判。
 まず東京地裁では2004年12月8日に判決が出ますが、「インク・カートリッジのリサイクル品は生産に当たらず,特許を侵害しない」としてその時はリサイクルアシストが勝訴します。

 ■参考:判例検索システム>検索結果詳細画面
 ■参考:判例検索システム>検索結果詳細画面

 しかしその後、キヤノンは控訴します。それと、この裁判では2つの特許侵害において裁判が行われていたのですが、特許庁はそのうちのひとつについて2005年夏に無効という判断を下します。

 ■キヤノン,インク・カートリッジの再利用を巡る裁判で控訴 – 産業動向 – Tech-On!
 ■リサイクル品の輸入差し止めに関するキヤノンの特許が無効に – 産業動向 – Tech-On!

 その後、知財高裁の大合議が行われ、2006年1月31日に判決が下ります。その結果はキヤノン側の逆転勝訴。

 ■ITmediaニュース:キヤノンのインクカートリッジ訴訟、知財高裁の大合議に
 ■ITmediaニュース:インクカートリッジ訴訟、キヤノンが逆転勝訴
 ■判例検索システム>検索結果詳細画面

 ちなみに何故逆転勝訴となったかは、その詰め替えインクの構成においてキヤノンに特許権があることはもともと認められておりましたが、リサイクルに当たってその権利が消尽するかどうかが争われていました。今回はそれがキヤノンにあると認められた形となっています。

 ■再生インク・カートリッジ訴訟、なぜキヤノンが逆転勝訴したのか – ニュース – nikkei BPnet
 ■日経BP知財Awareness – 「リサイクル」と「特許権侵害」の境界を明確にした知財高裁判決-西村ときわ法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士 岩倉正和氏インタビュー(1)

 そしてその後リサイクルアシストは上告しますが、2007年11月8日、最高裁は控訴棄却で、キヤノン側の勝訴が確定します。

 ■インクカートリッジ・リサイクル訴訟で、キヤノンの勝訴確定 – MSN産経ニュース
 ■判例検索システム>検索結果詳細画面

 ただ、このリサイクルアシストの製品は、非純正インクのシェアとしてはかなり小さいものでありました。実際私は見たことがありません。しかし何故訴えたかというと、かなり複雑な事情があるようです。

 ■参考:【Q&A形式でご説明(3)】なぜキャノンはリサイクルアシストを訴えたのですか? -オフィネット-

セイコーエプソン vs エコリカ裁判

 もうひとつの裁判は、同じくプリンタメーカーのセイコーエプソンと、詰め替えインクではかなりのシェアを誇っているエコリカの裁判。
 こちらは2006年10月18日、東京地裁でセイコーエプソンの請求を棄却します。
 ちなみにこちらの裁判は、セイコーエプソンの持つインクカードリッジの特許権における侵害が争点となっていたようですが、特許は「新規性なく無効」と判断されました。その前にその特許特許庁によって無効とされていたのが大きいようです。

 ■再生カートリッジ訴訟,エコリカが勝訴【訂正あり】 – 産業動向 – Tech-On!
 ■参考:再生カートリッジ訴訟に関連するエプソンの特許が無効に – ニュース – nikkei BPnet

 その後セイコーエプソンは控訴しますが、2007年05月31日、この控訴が棄却されます。

 ■再生カートリッジ訴訟,エコリカが勝訴【訂正あり】 – 産業動向 – Tech-On!
 ■判例検索システム>検索結果詳細画面

 そしてさらにセイコーエプソンは上告しますが、最高裁で棄却。これによりエコリカの勝訴が確定しました。

 ■エコリカ、エプソン製インクカートリッジ再利用の訴訟に勝訴
 ■参考:セイコーエプソン対エコリカ特許権侵害差止等請求事件、エコリカの勝訴確定のお知らせ(その1)【エコリカ リユース・リサイクルインク】
 ■参考:株式会社エコリカとのインクカートリッジ特許に関する訴訟について(2007年11月13日)

 ちなみにこの最高裁判決が下されたのは2007年11月9日、前述のキヤノン vs リサイクルアシスト裁判の翌日のことでした。

プリンターのビジネスモデル

 さて、上のは国内の判例ですが、世界中ではかなり多くのプリンタメーカー対インク業者の裁判が行われています。
 では何故、プリンタメーカーはこのように詰め替えインクに対して積極的に裁判を行っているのか。これはご存じの方も多いでしょうが、現在のプリンタのビジネスモデルが、本体を安く売ってその利益をプリンタインクの売り上げで回収する形だからと言われています。現在のプリンタの価格はコピーやスキャナ機能もついても3万以下というものがわりとありますが、これはつまり本体で利益を得るのではなく、プリンタを使い続けるに当たって必須なインクによって利益を得ているのですね。純正のインクが高いという話はよく聞きますが、これは単純にプリンタにかかる値段がこちらに割り当てられているということが言えます。
 で、ここから安いプリンタインクの需要が生まれるのはある意味必然なわけで、こういった詰め替え用のものが発売されるのでしょうが、これはプリンタメーカーにとっては大事な収入、そしてビジネスモデルを崩してしまう存在であると言えます。故にこれだけの裁判が行われているのでしょう。

 ■参考:キヤノンもリサイクル・アシストも正々堂々と勝負しませんか – 日経ものづくり – Tech-On!

特許の存在確認

 これらの裁判で言えることは、詰め替えインクの存在自体ではなく、メーカー側がそのインク業者の出した製品が、自社の特許を侵害していないかを争点としていると言えるでしょう。つまり、プリンメーカー側は詰め替えインクがその特許を侵害していることを主張し、逆にインク業者はそれをしていないことを主張するという感じ。で、キヤノンの場合はその特許が認められましたが、エプソンの場合は認められなかったということでしょう。

 というわけで、詰め替えインクといっても完全に個々の訴訟でケースが異なるので、このように違った判決が出てもそれらは矛盾しないということになるのではないかと。

 逆に言えば、製品を出すメーカーがある度にそれが特許をどう侵害しているか証明しなければいけないとも言えます。もちろん裁判を起こす前にプリンタメーカー側はハード面+特許でそれを回避する仕組みを作っているのでしょうが、インク業者はそれを越えて作ってくるので、いたちごっこになっていると言えます。

プリンタービジネスモデルの限界

 そして現在ですが、量販店のみならずあちこちで純正以外のリンクが売られています。これは前述のように一概に詰め替えインクが否定されたわけではなく、個々の特許によって異なるため、それを回避していれば違法ではないということから販売が行われているためでしょう。
 もちろんメーカー側も新しいインクカードリッジで対策を練っているでしょうが、いたちごっこであると言えるのと、ユーザーに「安いインクに対する需要」というものがあるので、今後も売られ続けることは明白でしょう。

 もちろんプリンタメーカー側から見れば、廉価版にはインクの質がメーカーのプリンターにそぐわないものというのもあり、思ったような印刷が出来ないとか故障がしやすくなるといったことも言われています(そしてそれは利益面以外でメーカーが詰め替えインクを差し止めたい一因でもあるのでしょう)。しかしそういった質はアピールが非常に難しいため、やはり安い方の需要が高いでしょう。ましてやこの景気では。

 やはり、どこかでプリンタメーカー側はこのインクによって採算を取るというビジネスモデルから転換してインク自体の値段が下がらないと、この問題はずっと続いてゆくのではないでしょうか。

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