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2009-03

鳥取県の人権条例はその後どうなったのか

 ネット上ではたまに法律が話題になることがあります。それは多くの場合可決前のもので、成立、施行されると本来言われている目的以外の不利益を及ぼす点を指摘されているものが多いです。たとえばPSE法問題なんてのがありましたし、最近は児童ポルノ法、国籍法、それに人権擁護法などといったものの法案の動きに対して、盛り上がる事があります。

 ■参考:PSE法問題はそれからどうなったのか – Timesteps
 ■参考:特集/ 同人用語の基礎知識/ それって本当に、子供を守るための規制ですか?(児童ポルノ処罰法の問題点について)

 さて、今日のはそんなネットで話題になったもののひとつ、鳥取県のある条例から。

鳥取県人権侵害救済推進及び手続に関する条例とその危険な点

 2005年9月12日、鳥取県議会でとある条例が可決されました。正式名称は『鳥取県人権侵害救済推進及び手続に関する条例』と言います。この法案の目的は名前通り人権侵害を救済するものとされます。
 これは当時の鳥取県知事、片山善博知事が、「地方レベルの人権救済制度の必要性」を表明したことをその制定の発端とするものだったとされています。

 しかし、ネット上ではこの法案が可決する前後から、騒ぎとなりました。
 その理由は、まず条例案第4条に「人権侵害救済推進委員会を設置する」と規定されているのですが、この委員会が不透明すぎることと、権力が強すぎること。
 この委員会の任命権は選挙でも議会でもなく、知事にあります。さらに、この人権侵害の基準がその委員会の判断に委ねられすぎる面が強かったのです。極論「委員会が人権侵害と思ったから」という理由で、その意図のなかった人に対してまでその対象に出来るようなことになり得る可能性があったのです。 
 特に18条3項の「委員会は、人権侵害の被害の救済又は予防を図るため必要があると認めるときは、職権により調査を行うことができる。」が問題となりました。これは被害者や第3者の申告さえも必要なく、委員会の職権で調査を開始するということで、極論令状なしで捜査に踏み込むという、警察よりも強い権限を持つことになる可能性さえありました。
 つまりその委員会に特定の思想や悪意を持つ人が入り込んでしまった場合、その意図に反する人を有罪にしてしまえるという、とんでもない事態になってしまう可能性もあったのです。

 それに加え、17条3項には以下のような条文がありました。「(5)(申立て又は通報の原因となる事実が本県以外で起こったものであること(人権侵害の被害を受け、又は受けるおそれのある者が県民である場合を除く。)。」つまり、被害者の対象は鳥取県のみであるにもかかわらず、加害者の対象はその他世界中の人が受けることになります。つまり一つの県の条例が全国に効力を及ぼす可能性、そしてネットでの書き込みも対象になる可能性があったのです。しかも前述のように委員会の判断一つで。
 たしかに地方条例なので刑事罰を貸すことは出来ませんが、当該勧告に従わないときは、その旨を公表することができるものとされており、これにより間接的な圧力が加えられることともなりかねません(特に会社など対面が大事な個人、法人は)。また、調査に従わないときはで5万円以下の過料となっていますが、これをリピートされる可能性があるということも指摘されていました。
 そのわりには行政機関が事実上免責されているという点もあり、条例として不完全きわまりないものになっていました。

 ■参考:鳥取県 人権侵害救済推進及び手続に関する条例 – 人権擁護法案を考える市民の会(条例案全文があり)

ネット上や弁護士会の反対

 ネット上では当時から今まで同じようなものとして「人権擁護法案」の問題点について叫ばれていますが、これはそれよりもさらに問題があるということで、大反発が起こります。

 ■参考:人権擁護法(案)
 ■参考:人権擁護法案に関するQ&A(行政側)
 ■参考:サルでも分かる?人権擁護法案:人権擁護法案Q&A(反対側)
 ■参考:人権擁護法案 – Wikipedia

 まず、ネット上での反発の動きからか、県内外から1000通以上の意見が県庁に届きました。
 そして、それまでも問題点を指摘してきた鳥取県の弁護士会が同条例施行規則の検討委員会に対する会員弁護士の派遣拒否を決議しました。

 ■鳥取県人権救済手続条例案に対する会長声明(2004年12月7日)
 ■「鳥取県人権侵害救済推進及び手続に関する条例」の施行規則検討委員会委員推薦を拒否し、同条例の改廃を求める総会決議

 そして2005年11月2日には、日弁連も意見を表明し、その抜本的手直しをすることを求めました。

 ■日弁連 – 「鳥取県人権侵害救済推進及び手続に関する条例」に関する会長声明

条例見直しの動き

 その結果、2006年3月に知事提案による「鳥取県人権侵害救済推進及び手続に関する条例等の停止に関する条例」が県議会で可決。見直しが完了するまで施行を停止することとなります。
 その後2007年4月、片山知事の退任に伴い平井伸治知事が就任。そして同年11月に「人権救済条例見直し検討委員会」は施行凍結中の条例の事実上廃止を盛り込んだ意見書を知事に提出し、条例廃止が規定路線になります。

条例廃案と既存法の改正

 2009年1月、知事は条例を廃止する条例案を2月議会に提案することを表明。そしてこれがこのまま可決されれば、先の法案は施行されないまま廃案となるようです。
 そして現在、鳥取県ではその代わりに鳥取県人権尊重の社会づくり条例を一部改正する方向で動いているようです。一読しただけなのでよくわかりませんが、相談と連携が主であり、委員会など権限の強いものはないように見えます。

 ■県人権救済条例:廃止へ 「県人権尊重の社会づくり条例」を改正--知事提案 /鳥取 – 毎日jp(毎日新聞)
 ■人権救済条例の代替策について/とりネット/鳥取県公式サイト
 ■鳥取県人権尊重の社会づくり条例の一部を改正等する条例案(pdf)

 ■参考鳥取県人権侵害救済推進及び手続に関する条例 – Wikipedia

法律の制定は慎重を期すべき

 当然、人権問題を軽視しろとは言いません。ただ、その本来の目的から逸脱して副作用を生じさせる可能性のある「瑕疵のある法律」については、それを十分検討、修正してから施行しないと、形を変えた、しかも法の下に認められてしまった新たな人権侵害を生み出すだけではないかと思うのです。
 法律というものはただの文字列ではなく、極論人の生活、人生、そして命までをも左右してしまうものなのですから、制定する側は細心の注意が必要ではないでしょうか。

日本のインクカートリッジ裁判はそれからどうなったのか

 確定申告がやっと終わりましたが、今年から自宅のプリンタで用紙を刷り出して提出してみました。
 さて、ここでインクを交換しながら思ったのですが、このインクを家電量販店で買おうとすると、メーカー純正の他にそれ以外のメーカーのプリンタインクってのが売っていますよね。それはそのメーカー品の使い終わったカードリッジを再利用しているものや、詰め替え用インクなど(量販店の片隅には、カードリッジの回収箱が置いてありますし)。
 しかしこれ、たしかプリンタメーカー側が裁判を起こしていたというのをニュースで何回か聞いたことがあるのですよね。でも、たしかニュースでプリンタメーカー側が勝ったとか詰め替えインク販売業者側が勝ったとかどっちも聞いたような気がするし、でも純正ではない詰め替えインクは売っているし結局どうなったのか経緯が混乱しています。
 ということで、せっかくなので調べてみることにしました。

かなりの訴訟が行われているカードリッジ裁判

 まず、このプリンターインクの裁判に関しましては、とある特定のプリンタメーカー対インク業者という構図ではなく、実に複数のパターンが存在することがわかりました。
 国内の有力2社の特定企業を相手とする裁判だけ抽出しても
 ・キヤノン vs リサイクルアシスト
 ・キヤノン vs ペリカン
 ・エプソン vs エレコム,エステー産業
 ・エプソン vs Multi-Union Trading,Dynamic Print USA
 ・エプソン vs Environmental Business Products
 ・エプソン vs 上海中材デジタル科技発展有限公司
 ・エプソン vs CybaHouse,Nutronics
 ・エプソン vs エコリカ
と、大量に出てきてしまいます。

 ■参考:★パテントサロン★ トピック インクカートリッジ,トナーカートリッジ特許訴訟

 さて、今日はこの中から国内の企業同士で起きた、日本の判例として比較的重要と思われる例を2つ挙げてみたいと思います。

キヤノン vs リサイクルアシスト裁判

 まずひとつめ。これはキヤノンが中国で インクカートリッジを中国で再充填して日本で再販していたリサイクルアシストを訴えた裁判。
 まず東京地裁では2004年12月8日に判決が出ますが、「インク・カートリッジのリサイクル品は生産に当たらず,特許を侵害しない」としてその時はリサイクルアシストが勝訴します。

 ■参考:判例検索システム>検索結果詳細画面
 ■参考:判例検索システム>検索結果詳細画面

 しかしその後、キヤノンは控訴します。それと、この裁判では2つの特許侵害において裁判が行われていたのですが、特許庁はそのうちのひとつについて2005年夏に無効という判断を下します。

 ■キヤノン,インク・カートリッジの再利用を巡る裁判で控訴 – 産業動向 – Tech-On!
 ■リサイクル品の輸入差し止めに関するキヤノンの特許が無効に – 産業動向 – Tech-On!

 その後、知財高裁の大合議が行われ、2006年1月31日に判決が下ります。その結果はキヤノン側の逆転勝訴。

 ■ITmediaニュース:キヤノンのインクカートリッジ訴訟、知財高裁の大合議に
 ■ITmediaニュース:インクカートリッジ訴訟、キヤノンが逆転勝訴
 ■判例検索システム>検索結果詳細画面

 ちなみに何故逆転勝訴となったかは、その詰め替えインクの構成においてキヤノンに特許権があることはもともと認められておりましたが、リサイクルに当たってその権利が消尽するかどうかが争われていました。今回はそれがキヤノンにあると認められた形となっています。

 ■再生インク・カートリッジ訴訟、なぜキヤノンが逆転勝訴したのか – ニュース – nikkei BPnet
 ■日経BP知財Awareness – 「リサイクル」と「特許権侵害」の境界を明確にした知財高裁判決-西村ときわ法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士 岩倉正和氏インタビュー(1)

 そしてその後リサイクルアシストは上告しますが、2007年11月8日、最高裁は控訴棄却で、キヤノン側の勝訴が確定します。

 ■インクカートリッジ・リサイクル訴訟で、キヤノンの勝訴確定 – MSN産経ニュース
 ■判例検索システム>検索結果詳細画面

 ただ、このリサイクルアシストの製品は、非純正インクのシェアとしてはかなり小さいものでありました。実際私は見たことがありません。しかし何故訴えたかというと、かなり複雑な事情があるようです。

 ■参考:【Q&A形式でご説明(3)】なぜキャノンはリサイクルアシストを訴えたのですか? -オフィネット-

セイコーエプソン vs エコリカ裁判

 もうひとつの裁判は、同じくプリンタメーカーのセイコーエプソンと、詰め替えインクではかなりのシェアを誇っているエコリカの裁判。
 こちらは2006年10月18日、東京地裁でセイコーエプソンの請求を棄却します。
 ちなみにこちらの裁判は、セイコーエプソンの持つインクカードリッジの特許権における侵害が争点となっていたようですが、特許は「新規性なく無効」と判断されました。その前にその特許特許庁によって無効とされていたのが大きいようです。

 ■再生カートリッジ訴訟,エコリカが勝訴【訂正あり】 – 産業動向 – Tech-On!
 ■参考:再生カートリッジ訴訟に関連するエプソンの特許が無効に – ニュース – nikkei BPnet

 その後セイコーエプソンは控訴しますが、2007年05月31日、この控訴が棄却されます。

 ■再生カートリッジ訴訟,エコリカが勝訴【訂正あり】 – 産業動向 – Tech-On!
 ■判例検索システム>検索結果詳細画面

 そしてさらにセイコーエプソンは上告しますが、最高裁で棄却。これによりエコリカの勝訴が確定しました。

 ■エコリカ、エプソン製インクカートリッジ再利用の訴訟に勝訴
 ■参考:セイコーエプソン対エコリカ特許権侵害差止等請求事件、エコリカの勝訴確定のお知らせ(その1)【エコリカ リユース・リサイクルインク】
 ■参考:株式会社エコリカとのインクカートリッジ特許に関する訴訟について(2007年11月13日)

 ちなみにこの最高裁判決が下されたのは2007年11月9日、前述のキヤノン vs リサイクルアシスト裁判の翌日のことでした。

プリンターのビジネスモデル

 さて、上のは国内の判例ですが、世界中ではかなり多くのプリンタメーカー対インク業者の裁判が行われています。
 では何故、プリンタメーカーはこのように詰め替えインクに対して積極的に裁判を行っているのか。これはご存じの方も多いでしょうが、現在のプリンタのビジネスモデルが、本体を安く売ってその利益をプリンタインクの売り上げで回収する形だからと言われています。現在のプリンタの価格はコピーやスキャナ機能もついても3万以下というものがわりとありますが、これはつまり本体で利益を得るのではなく、プリンタを使い続けるに当たって必須なインクによって利益を得ているのですね。純正のインクが高いという話はよく聞きますが、これは単純にプリンタにかかる値段がこちらに割り当てられているということが言えます。
 で、ここから安いプリンタインクの需要が生まれるのはある意味必然なわけで、こういった詰め替え用のものが発売されるのでしょうが、これはプリンタメーカーにとっては大事な収入、そしてビジネスモデルを崩してしまう存在であると言えます。故にこれだけの裁判が行われているのでしょう。

 ■参考:キヤノンもリサイクル・アシストも正々堂々と勝負しませんか – 日経ものづくり – Tech-On!

特許の存在確認

 これらの裁判で言えることは、詰め替えインクの存在自体ではなく、メーカー側がそのインク業者の出した製品が、自社の特許を侵害していないかを争点としていると言えるでしょう。つまり、プリンメーカー側は詰め替えインクがその特許を侵害していることを主張し、逆にインク業者はそれをしていないことを主張するという感じ。で、キヤノンの場合はその特許が認められましたが、エプソンの場合は認められなかったということでしょう。

 というわけで、詰め替えインクといっても完全に個々の訴訟でケースが異なるので、このように違った判決が出てもそれらは矛盾しないということになるのではないかと。

 逆に言えば、製品を出すメーカーがある度にそれが特許をどう侵害しているか証明しなければいけないとも言えます。もちろん裁判を起こす前にプリンタメーカー側はハード面+特許でそれを回避する仕組みを作っているのでしょうが、インク業者はそれを越えて作ってくるので、いたちごっこになっていると言えます。

プリンタービジネスモデルの限界

 そして現在ですが、量販店のみならずあちこちで純正以外のリンクが売られています。これは前述のように一概に詰め替えインクが否定されたわけではなく、個々の特許によって異なるため、それを回避していれば違法ではないということから販売が行われているためでしょう。
 もちろんメーカー側も新しいインクカードリッジで対策を練っているでしょうが、いたちごっこであると言えるのと、ユーザーに「安いインクに対する需要」というものがあるので、今後も売られ続けることは明白でしょう。

 もちろんプリンタメーカー側から見れば、廉価版にはインクの質がメーカーのプリンターにそぐわないものというのもあり、思ったような印刷が出来ないとか故障がしやすくなるといったことも言われています(そしてそれは利益面以外でメーカーが詰め替えインクを差し止めたい一因でもあるのでしょう)。しかしそういった質はアピールが非常に難しいため、やはり安い方の需要が高いでしょう。ましてやこの景気では。

 やはり、どこかでプリンタメーカー側はこのインクによって採算を取るというビジネスモデルから転換してインク自体の値段が下がらないと、この問題はずっと続いてゆくのではないでしょうか。

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